パウンドケーキと私

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少し大人の香りがした、ラム酒でもつかっているのか。その香りに包まれる時間は心地よく、いつした私はそれが目の前のパウンドケーキから発せられるものと知る。食べたい。どんな味がするのだろう。目の前にあるのに食べられない。一度は悲しみに、視界にいれないようにしようかとも思った。

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パウンドケーキから離れようとしたら、止められた。なぜ。

そして、私は魅惑のパウンドケーキが週一回一切れずつ手渡される国に連れて行かれた。パウンドケーキのあのラム酒の艶美な香りを知りながら、私にとってのパウンドケーキは給餌されるものとなった。

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配給されるパウンドケーキ。こんな風に食べたい訳じゃない。それでも週一回のそれは私を癒していった。

ナイフで好きな大きさに切り、食べたい時に食べる。食べない時もある。私は自由にパウンドケーキが食べたい。
あの香りを感じないほど切迫した状況でなく、おやつとして、人生の伴として。

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しばらくパウンドケーキのない世界に行こうと思う。しばらくの長さはわからない。
一切れのパウンドケーキ。右端左端真ん中、食べるたびに少しずつだが、焼き上がりの姿が見えてきた。
初め惹かれた香りもその一部であり、間違いなくパウンドケーキから漂うものだった。

大好きだ。今再び思う。